115.鼠浄土

黒氏    平野  すず子

  むかし、あるところに、爺さまと婆さまがおったと。ある日、爺さまは弁当を持って山仕事に行ったげ。昼になったので弁当を食べようとしたところが、おむすびがころがっていったもんで、追かけたら、穴の中へ入っいってしもうた。爺さんは、ありやと思うてのぞいとったら、ネズミが出てきて
「このおむすびは爺さんなのか」ちゅうて聞くもんで、
「そうや、おらのがや」というて、返えしてもらったが、あんまりかわいいネズミやったもんで
「おまえに半分やるわいの」ちゅうて半分わけてやったと。二個めも三個めも食べようとしたら転がって穴の中へ入ってしもた。とうとう婆さんのつくったおにぎりやないがになってしもたと。
  そこへネズミがきて、
「どうかおらの家まできてくだんせえ、おらのしっぽつかまえて、目をつむっておればええから」というたと。
  爺さんも、ネズミの家をみてみたいと思ったので、いわれたとおり、しっぽにつかまって、目をつぶって行ったと。目を開けてもいいと言ったもんで、目を開けたら、そりやりっぱなネズミの家やった。大ぜいのネズミがでてきて、爺さんに、おにぎりの礼を言ったら臼を出すやら、米をむすやらして、餅つきの用意をした。そして歌をうたいながら、餅つきをはじめたと。じっと聞いていたら、
  この世にノーエ  猫やイタチがいなければ
  極楽浄土のまん中だ  ぺタンコ ぺタンコ
  と歌いながら餅をついたげ、そして爺さまにごちそうしたがや、爺さまがひどいよばれたもんで、そろそろ帰ろうとしたら、
「爺さま、爺さま、おみやげに宝の箱をくれっさかい、重いのと軽いのと、どっちゃいのお」と聞いたので、
「おら年やさかい、軽いがでええ」と軽いがをもろで、家に帰ったと。
  家には婆さまが待っていた。
「爺さま、今日は遅かったのお、何かあったがかぁ」と言うたもんで、爺さまは、あったことをみんな話して、もらった宝箱をあけると、大判・小判がいっぱい入っておったと。爺さんと婆さんは喜んでジャララン、ジャラランと音をさせて楽しんでおったら、隣りの爺さん、婆さんがそれを見て「どうして、そんなに金持ちになったのか」とたずねたのや、正直な爺さんは、あったことみんな話したら、隣りの婆さんが、さっそくにぎりめしをつくって爺さまに持たせて山へ行かせた。
  欲ばり爺さんはまえの爺さんの穴をみつけて、にぎりめしをころがしたら、ネズミが出てきて、爺さんをしっぽにつかませ、目をつぶれといって、りっぱな家に連れていった。前の爺さんのときと同じように、歌をうたいながら餅をつきはじめたと。隣りの爺さんは、ここで猫の鳴き声を出せば、この家の宝物はみんなおれのものだと考えて、「二ャゴー」と猫のまねをしたと。すっとあたりは真暗になって、ネズミたちは逃げてしまったし、宝物どころか、土の中に爺さんひとり残されて、泣き泣き手さぐりで外に出たと。家に待っとった婆さまは、
「宝物は、早く早く」といったが、爺さまは泣き泣き帰ったと。
(大成185「鼠浄土」・通観44「鼠の楽土・隣りの爺型)

(類話)

川田    守山  裕美子

(付記)

鼠浄土

  地下にあるネズミの楽園を訪ねて、財宝をもらってくる昔話。
  爺が山や畑に行って、弁当の団子、(握り飯)を食べようとした時、落としてしまう。穴に転がりこんだ団子を追っていくうちに、爺はネズミの世界へ入りこむ。ネズミは「猫さえおらねばネズミの世の中ストトンストトン」などと歌って餅をついている。爺は団子の礼に宝物を土産にもらって家に帰る。隣りの爺はうらやましがって、わざと団子を転がしてネズミの穴へ入る。ネズミの歌を聞いて猫の真似をしたところが失敗する。
幼児向けに「おむすびころりん」の話となっている。