114.ばかでも総領
春木 小谷内 勝二
むかし、あるところに三人の兄弟がおってのお、兄んかがはばしないもんでな、おじに家を継がしたいぎちゃ。はじめからおじに、跡継がせるちゅうことも、言えんもんじゃさかい、親が試してみたげちゃ。
「一番うまいこと言うたもんに、この身代を渡すが、どうやい」と、三人に言うたら、みんなは
「ほんならよかろう」ちゅうがになって、一番おとおじから、答えるがになったげちゃ。
父うとが問題を言うたぎい。
「一番はよう作って、一番はよう食べられるもん、何じゃい」、すっと、おとのおじや、
「そやなあ、そばかな、そばちゅうもんな、八月種まいて、十一月いけや、とって食べられるもんなあ」ちゅて答えた。
その次に、上のおじや、
「そばぐらいでない。二十日大根な、まきや二十日程で食われるがいや」と言うたと。そしたら、おとのおじや、おら負けたなと思ったとい。
次に、兄んかの番になって、兄貫や
「おまえらちや、二人がら、だらやわいや」て言うたとい。
そしたら、二人のおじらちゃ
「おまえや、そんなまい名案があっかい」ちゅうたとい。
兄んかは、
「作ってすぐ、食べられるもんな、刺身やがいや。つくっなり食べられっぞ」と言うたとい。
これを聞いた親父や、やっぱり兄んかだけある、だらやと思うとった兄貫が、賢いちゅことになって、財産を継ぐことになったげと。
(大成175「馬鹿でも総領」・通観404「ばかでも総領」)
(付記)
馬鹿でも総領
兄弟談の一種。長男相続は室町・戦国時代以降に行なわれ、江戸時代、武家社会でこれが制度として確立した。この話から、長男子相続が確立する過度期にできたものと思われる。
兄弟二人いて、兄貴が少しまあ頭が変になっていた。弟が賢かった。だれを相続人にしようと思ってためしてみた。「一番で早いとこ何でもして食べられるものは何や」と父親が間うたら、賢しこい弟は「そばなら三十日に食べられるし、大根まきや三日たちや食べられる」兄は「すしすりゃ今して今食われる」といい、やっぱり兄貴だけあるということで賢いということになった。