112.親王塚で椀貸し

一青    北林  ふみ子

  むかし、嫁どりやら法事やらで、ご膳がたくさんいるとき、親王塚へいって「ご膳を三十枚、おわんを九十貸してくだんせ」と、お願いすると、あくる朝、ちゃあんとその数だけ出してあったとい。
  村の人が、使うたあと、うつくしゅう洗うて、元のところへ返しておいたげね。ところが欲のふかい人がおって、お膳を一枚かくいて、返さなんだことがあったげと、そしたら、それからは、誰れが頼みに行っても貸してあたらんようになったげと。
(通観22「貸し椀穴場」)

(参考)

椀貸穴

(鹿島郡誌より)

  小田中、親王塚の頂に山穴あり、此の村の貧しき人々、必要なる時、此の穴より膳椀衣裳類などを借りて使用せしといふ。人用の場合兵の前夜穴に向って頼み置けば、明朝其の品を取揃へありしと、然るに借りたるまま返さざりしものありしため、遂に貸出し、せざることとなれり。

(付記)

貸し椀穴場

  白こべ山の穴場に神がおり。婚礼や法事でお膳がたくさんいるとそこにお供え物をして頼むと、翌日、穴の前にお膳百枚とお椀三百が出してある。村の人は使ったあと、よく洗って元のとおり穴場の前へ返したが、欲の深い人がお膳一枚隠して返さなかった。それ以来、誰がたのんでも貸してくれなくなる。
(通観22)