111.家の木たちの夜話

良川    千場  つき

  人々が寝静まった夜中に、一軒の家をつくっている木どもが、誰からともなくひそひそ話をしておるげえ。
  みんなの木あ、床柱に
「あんた座敷の真中にいて、みんなからあがめられいいな」
  うらやましく話しかけたと。
  そこで一番口説くがあ、壁の中へ塗り込められておる、こうまい板や、
「あんたらちあ、人様の見る表へ出ておって結構や、それで床柱をうらやましがって、おらちあ、縄に縛られ泥に塗られて、一代人に見られん物陰で、あんたらちと一緒におるげえ」と言ったと。
  そこで床柱が静かに言うがにゃ、
「家にや、閑所の踏板から床の間もあるげえ、居場所によって名前あ変るけど、共同してこの家を守っておるげえさかえ」そして床柱がまた静かに言うげちや、
「たしかに床柱あ一番あがめられているけど、閑所の踏板あ、泥足に踏まれ臭さい閑所におるが嫌やさかい言うて、床の間へあがってもろうても、家あ成り立たんさかえ、それぞれめいめいの仕事、役割を果すまいかえ」と、言い続けてね、
「一軒の家にも、とうともおるし、かあかもおる。かあか飯焚くが嫌いやさかい言うて、とうとあ台所へ出ておっても見ともない。そこに居る塵箱や痰壷あ、いま居るとこあ嫌やさかえて、床の間へあがっても、床の間には床の間の飾物を置かんならんげえさかい駄目なげ、それぞれの役目があるげえさかえ」と言ったと。
  床柱の貫禄のある話に、家の中の木どもあ、皆うなずいて、明るい朝を迎えたといね。