108.子育て幽霊

良川    千場  つき

  おなか(腹)に子供がいた姉さんが死んだげと。そのころや土葬やったげね。それを埋めたげわね。ほしたら、母親はもう死んでしもとれんけれども、その赤ちゃんな墓の中に生れてえね。そしたら、毎晩、近所の飴屋へ、髪を乱した女がきて、首に掛けてある四十九文の銭を、一文ずつはずして、細い声で飴一文を買いに来るぎと。きれいな女の人がね。飴をもらうとすうっと帰っていくげわね。
  ほんでなんか変やなあとおもうて、飴屋の主人がついていったげと。その女の人のあとをね。ほおすっと、寺の墓地んとこへ行ってね、すっと消えてしもたんやて。ほんでつぎの日、寺の和尚さんにあんまり不思議やもんで言うたげと。和尚は十日程前に身持ちの若い姉さんが死んだが、その墓でなかろうか、というので墓をあけたらそこに赤ん坊がおって飴を口にしておったといね。
  子供が腹におって死んだ母親はどんだけつらかったやろね。子供を育てんならんちゅ執念からやね。ああいうふうに飴を買いに行って育てていたげね。ほんで、その子がお寺に引きとられて、寺町の法華寺のりっぱな坊さんになったと。
(大成147A「子育て幽霊」・通観52「子育幽霊・出世型」

(類話)

川田    守山  裕美子    大槻    小蔵  きよ乃    瀬戸    笹谷  よしい    春木    小谷内  勝二

(付記)

子育て幽霊

  妊婦が死んで埋葬されてから出産し、幽霊となって飴を買い求めてその子を育てる話である。
  一文あきないの飴屋へ、毎晩きまった時間に、一文持った女が飴を買いにくる。六晩めに不思議に思った飴屋の主人が女のあとをつけると墓場にきて、そこで赤子の泣き声がする。棺の中の六道銭を使って毎夜飴を買って赤子を育てていたことがわかる。
  また育てた赤子が後に高僧となったという。高僧の異常誕生談ともなっている。