107.桃太郎

良川    千場  つき

  むかしむかし なんと貧しい村があってな その村に爺さんと婆さんがおったと。その村へは鬼どもがときどきやつてきて村をあらしていくもんで ほんでいつも貧しかったげと
  ある日、爺さんは山へ柴刈りに、婆さんは川へ洗濯に行ったげえと。そうしたところが、川上から大きな桃が一つポンポコ、ポンポコと流れてきたそうな。婆さんな喜んで拾って、家へ持って帰って、爺さんと二人して食べようと、戸棚の中へ入れて置いたと。
  爺さんな山から帰って来たので、
「爺さん、爺さん、きょうはまあ大きな桃を拾うてきた。ふたりで食べよう」と、だしてきて、切ろうとしたら、ぽかっと桃が二つにわれて、中から男の子が生まれたと。
「おや、爺さん、男の子ができた」
「よかった、よかった。桃から生れたさかえ、桃太郎という名にしよう」それから
「桃太郎、桃太郎」というて、爺さんと婆さんは大事に育てたと。桃太郎はぐんぐん大きくなってカ持ちになった。
  ある日のこと、
「お爺さん、お婆さん、きびだんごをしてくれ、鬼がやってこんうちに、鬼が島へ鬼退治に行ってくる」というたと。
  お節さんとお婆さんは、びっくりしたけれども、桃太郎の言うことじやと思うて、きび団子を作ってやった。桃太郎はきび団子を腰にさげて出かけたそうや。
  どんどん行くと犬がでてきて、
「ワンワン、桃太郎さん、どこへ行きます」
「鬼が島へ鬼退治に」
「お腰のものはなんですか」
「日本一のきび団子」
「一つくだされ、おともします」というて家来になった。次に猿に出あった。同じように、きび団子をもらって家来になった またどんどんすすんでいくと、雉が羽でてきて仲間になったみんなが船に乗って、鬼が島へついたが、鉄の門がしまっておったと。雉がパアッと飛んで、門のかぎを開けたので、犬と猿と桃太郎は鬼をさんざんやっつけたそうな。猿はひっかく、犬はかみつく、雉は目の玉をつつく、桃太郎はカ持ちだからたたきつぶす。鬼はとうとう降参したげ。
  「どうぞ許してくだされ、もう悪いことはしません」と言って鬼が宝物をたくさんくれたと。宝物を船に積んで帰ってきたもんで、村のもんなみんな集まってお祝いした。爺さんと婆さんは、鬼が島の宝で楽に暮らしたと。
(大成143「桃の子太郎」)

(類話)

大槻    山崎  幸子    川田    守山  裕美子

(付記)

挑太郎

  挑から生まれた男の子を主人公にした本格昔話である。
@婆さんが川で挑を拾い、その挑から男の子が生れる、という異常な誕生を語る部分と 異常な成長をして鬼が島へ鬼征伐に出かけ、犬、猿、維に出合って家来にしていく部分A鬼退治をして宝物を持ち帰るという結末部分からなっている。
  五大おとぎ話の一つである。明治以降、小学校の国定教科書にものせられたことで画一化しているが、ところによっては異なった「桃太郎」が伝承されているといわれるが、ここでは違った形のものは聞けなかった。またこの「挑太郎」に類する、瓜子姫や、カ太郎の昔話も採集できなかった。