106.一寸法師

末坂    三野  喜美子

  むかしむかしあるところに爺さまと婆さまおったと そやけど子供がおらんもんで 神様に析ってどんな子でもいいさかいと一心にまいっとったげと。そしたら小さい小さい指にもたらんくらいの小さい子が出きたと。あんまり小さいもんで一寸法師ちゅう名前をつけたげ。これや神様の授かりもんやさかいというて大事に育てたと。
  ところがある日のこと一寸法師が
「ぬい針一本くれんか」というて婆さまから針を一本もろうと、それを麦わらにさして腰につけて刀にした。
「おらこれから都へ行って修業してくる」といってお椀の舟に乗って箸をかいにして川を下って行った。
  そして都へついたげ。そしたらちようどお姫様の行列に出合った。そのとき鬼どもがお姫様におそいかかろうとしていたので、一寸法師は鬼の足を針でチクリと刺した。鬼はおこってこんなじやまするやつは一のみにしてやるわ、と口の中へ一寸法師をほうり込んだと。一寸法師は針の刀で鬼の腹の中をあっち、こっち突き刺したと、鬼はいたくていたくて吐き出して許しをこうて、鬼の宝の打ち出の小槌をくれたと。
  お姫様は一寸法師にあぶないところを助けられたげ。お姫様は一寸法師が好きになり、一寸法師に
「大きくなれ」と打ち出の小槌をふらせたところ、みるみる大きな男になり一寸法師はお姫様のお婿さんになって、爺さまと婆さまをよびよせて、しあわせに暮したと。

「類話」

一寸法師

川田    守山  裕美子

  むかし昔、子供のいないお爺さんとお婆さんと居って神様にお祈りしたげと、どんなに小さくても良いから子供を授けて下さいとお願いしたら、小指程の小さい子供が授かったと。
  その子が一寸程の小さな子供だったので一寸法師ちゅう名前をつけたぎい。一寸法師はお爺さんとお婆さんの宝物のように大事にされて育ったげと。
  一寸法師は大きくならんぎいけれど利巧な子になって体も強い子になったげ。ある日お爺さんとお婆さんに都に行って働きたいていうたぎいて、一寸法師は針を刀にして麦藁をサヤにしてそれを腰にさいて、お椀の船に割箸の擢で川をずうっと漕いで行ったぎいて、畿日もかかってやつと都に着いたと。
  都へ着いてから一寸法師は大きいお屋敷の前へ来たもんで、そのお屋敷へ入って行って、そして玄関で
「頼もう」ていうたがやけどなかなか出てこんもんで又声を張り上げて
「頼もう」と大きな声でいうと
「どおーれ」ちゅうてお待さんが出て来たぎいと。そして玄関を見渡して誰も居ないから奥へ入って行ったきいと、そしたら一寸法師は足駄の間から飛び出して来て
「ここに居るぞう」ていうたらその人は又戻ってきて
「おおー、お前がそうか」ちて手のひらを出したので一寸法師は手のひらの上へ乗ったら
「なんと小さい子やな」ちゅうて殿様の所へ連れて行ったぎいて、そして殿様に家来にしてくれちて頼んだら、殿様は
「お前はおもしろい子や」と言われた。
「しかし家来にする時は何かを出来にゃ駄目や」ていわれて、一寸法師はそれで何かをして見せるちゅうて、そばに猫が寝そべって居ったもんで猫の身体へ跳び乗って針の刀を抜いて"蚤"を取ったぎいて、そして殿様に見せたら、殿様は
「お前はおもしろい事が出来るぞ家来にしてやる」ていうたぎいて。
  殿様にはきれいなお姫様が居ったきいて、そこで一寸法師はお姫様の家来にしてもらったぎいと。ある時お姫様がお宮様へ
「良いお婿様が授かりますように」ってお参りする事になって一寸法師もついて行ったぎい。お参りして帰ってくる途中に赤鬼と青鬼の悪い鬼が出て来てお姫様を捕まえようとしたぎいと、そしたらその時に、家来達は恐ろしい鬼が出て来たもんでびっくりして「ワアー」て逃げたぎいけれど、一寸法師は逃げないで身体が小さいから鬼の身体へ跳びついて、刀を抜いて目の玉をチクリッ、チクリッて刺したぎいて、そしたら鬼あ怒って一寸法師をつまんで口の中へ放り込んだぎい、そしたら放り込まれて腹の中まで行った一寸法師は、お腹の中をチクリッ、チクリッと刺したぎいと、鬼は痛いもんで「痛い!痛い!痛い!」ちゅうて口を開けたもんでそのとたんに一寸法師や跳び出たぎいて、そして赤鬼も青鬼もやっつけたら、二四の鬼は泣き泣き逃げて行ったぎいて。
  そしたらその後に鬼がいつも大事に持っていった”打ち出の小槌”を落して行ったぎいと、その「打ち出の小槌」と言うのは何んでも願いの吐かなうそういう珍しい小槌のぎいて。
  その「打ち出の小槌」をお姫様が「一寸法師よ大きくなれ」て三回言って振ったぎいて、そしたら一寸法師はみるみる大きくなって立派な大人になったきいて、お姫様と結婚して仲よく暮らしたぎいと。

お椀の船に箸の櫂
  一寸法師は独り旅
お椀のお船はギッチラコ
  流れて行きます
  春の川
ドンブラ ドンブラ
 ドンブラコ
ギッチラ ギッチラ
 ギッチラコ

(付記)

一寸法師

  お伽草子に一寸法師という名でとりあげられているが、異常に小さな姿で出現する者を主人公にしている昔話の代表のようになっている。
  子どものない夫婦が観音様に願がけして授けられた申し子である。
  少しも大きくならないので一寸法師とよぶ。一寸法師は針を剣として持っていく。ある家に奉公して娘の供をして外に出て鬼に会う。一寸法師は鬼にのまれ、針で腹をついて宝物を得る。鬼の宝物によって体が大きくなり娘と結婚する。