104.鶴の恩返し (鶴女房)

瀬戸   笹谷  よしい

  むかし、あるところに、お父とにも、お母かにも早く死に別れ、たったひとりで暮らしている若者があったそうや。
  ある日のこと、山へ木を切りに出かけたと。斧でカいっぱい木を切っていると、一羽の鶴がひらひらと落ちてきたげ。鶴はどこか傷でもしておるのか、よろめいては若者のそばへきたが、カがつきたのか倒れてしまったと。
「かわいらしい鶴やが、どっかげがでもしとるんじやなかろうか」と言って、若者がみてみたら、羽に一本の矢がささっておったがや。
「こりゃ痛いやろ、ちょっと我慢しとれよ」、ちゅうて若者は矢を引き抜いて、谷川へ行って鶴の傷口を洗ってやったと。鶴は楽になったのか、二・三回羽ばたきをしたら、空高く舞い上った。そして、大きく一回輪をかいて回って飛んで行ったそうや。若者は、切りかけの木に、また斧をふり上げて仕事をはじめたげ。
  それから何日かたったある晩のこと、コト、コト、コトと戸をたたくので、何んやろ、今ごろと思って若者が戸を開けたら、
きれいな娘さんが「わたしや、おまえさんの嫁さんにしてもらえんやろうか、と思ってここへきました」といったそうや。
「とんでもねえ、このとおり貧乏で、嫁さまなど、とても、とても・・・・」と若者が声をつまらして言うたが、
「貧乏など、なんでもありません、どうか置いてください」若者は夢でもみているようで、
「おら、うれしい。こんな嫁さんがきてくれるなんて・・・・」それからしあわせな日が何日も続いたが、ある日のことやった。
  「おなごは機を織るものながで、どこか、奥の部屋にでも機場をつくって下さらんか」とこう言うたと。若者もそうか、そうかと言って機をすえたそうな。嫁さんは喜んで、その日から機場に入ったが、そのとき、
「七日の間は、けっしてのぞいてはなりません」と言って、戸をぴったりとしめてしもたそうや。
それからキッコン、パッタンと機の音が続いたげ。若者は約束を守って、のぞかなんだ。すっと七日が過ぎると、戸が開いて嫁さまが出てきた。見たこともない、美しい布を持っておったが、その嫁さんの姿はずっとやせておったと。
「これを町へ行って売ってきてくだされ」と言うので、町へ売りに行ったら、「これは大したものじゃ」といって、高い値だんで買うてくれて、戻ってきたら、また布ができていたと。そしてだんだん若者は金持ちになったと。しかし若者は「おらの嫁さまは、それにしても、不思議な・・・・どうして糸もないのに布が織れた・・・・」「でも、のぞくなと言うし・・・・」とうとう若者は、我慢できなくなって、そうっと、節穴から部屋をのぞいてみた。そしたら、機の前にすわっているのは、嫁さまでなあて、一羽の裸の鶴やったと。自分の羽を抜いては糸にして、機を織っているげちゃ。若者は急に体に寒む気を感じたげ。目の前も暗くなって、何もかもわからなくなってしまったと。そしたら、ちゃんと機をやめ、前よりも、もっとやせた姿で若者の前に座って「鶴の羽衣の布」をたたんで出して、「わたしは、いつか助けてもろうた鶴です。姿をみられたからには、もうおそばにはいられません、この布を売ってしあわせに暮して下さい」そう言い終ると嫁さまの姿は、みすぼらしい鶴の姿になって、カウ、カウと悲しい声をのこして、遠い空へ消えていってしもたと。かいほうしてやった鶴の恩返しやわいね。
(大成115「鶴女房」・通観「鶴女房」)

(類話)

良川    千場  つき    川田    守山  裕美子

(付記)

鶴女房

  助けられた鶴が女房となり、機織りをして恩返しをするという異類婚姻談。
  若者(狩人)が傷ついた鶴を助ける。美女が訪ねて来て女房になる。女はのぞいてはならないと言って機を織る。布が高価に売れる。男が機屋をのぞくと、鶴が羽を抜いて反物を織っている。女は正体を見られたことを知って飛び去る。
  異類婚姻談では、異類の姿を知られたことが婚姻の破局になっている。採集したなかに機織りを奥の部屋一室にというものと、機屋を別棟に建ててくれと鶴が言うたものとあった。鶴を神の化身としたためであろう。