102.蛇婿入り (水乞い型)

川田    守山  裕美子

  むかし昔、沼の大蛇がなんでも願いを叶えてくれるから、お願いすればやってくれると聞いてお願いに行った。そうすると大蛇が
「お前の娘を一人誰でもいいからくれたら望みを叶えてやる」ていうぎい、そうするとそのお父さんは家へ帰って
「日照りも続いて食べ物も採れんし、池の大蛇にお願いしたら、お前たちのうち誰か一人嫁に行ってくれれば、雨を降らせて田んぽに米が採れるようにしてやる」ていうぎい。
「頼むからお前たち三人の内に一人嫁に行ってくれ」て頼むぎいね、そうすると姉娘は
「私はそんな大蛇の所へなんか恐して行けない」ちゅうて断るし、二番目の娘も
「私だってお父さん行かれん」てゆうぎい。そうするとお父さんが「あー駄目か」ていうて、次に三番目の自分が一番かわいがっとる娘やったもんで、お父さんは自分の口から三番目の娘に「お前行ってくれ」て言われなかったぎい。そして「あーあッ駄目か」て頭をかかえてしまったら三番目の娘が
「お父さん私が行きましょう」ていうぎい。お父さんはびっくりして自分の耳を疑って「ええーッ」ていうと
「お父さん私が大蛇の所へ嫁に行きましょう」て返事をしてくれた。お父さんは泣き泣き
「お前行ってくれるか」ていうたら、雨が降ってきて田んぼを潤してくれたわけやね、ほして稲がいいがに実って米が沢山採れて喜んでしもうて、嫁にやる話も忘れてしまっとったぎい。ある晩のこと、一人の時がトントンと戸を叩くもんでびっくりして戸を開けて見ると、立派な侍が立っとるぎい、そやもんで
「どなた様でしょうか」てたずねると
「娘をいただきに来ました」ていうたと。"ふっ"と嫁にやる話を思い出すぎい、そして、
「そんな娘は居らん」て断ったが、妹娘が「いいえお父さん約束ですから私がお嫁に行きます」ていうぎい。そしてお待さんにつんだって行くぎゃわ、心配になったお父さんはずっと後からどこへ行くぎいろかと思ってついて行ったら、大きな沼の所まで来たら姿が見えなくなったぎい。アーやっぱり沼の主の所へ行ったぎいなと思うたら、かわてかわておられなんだぎい。
  それから何年かたったある日のこと、その大蛇の所へ行った娘が戻ってくるぎい。赤ちゃんを生みに来たぎゃね、
「お父さん私は赤ちゃんを生みに来たぎい」て、そして
「私に一部屋下さい」いうて、
「私が赤ちゃんを生むまでお父さん決して私の部屋を覗ぞいてはいけませんよ、もしお父さんが覗いたら私は一生この家には帰られません」ていうぎい。
「わかった、わかった決して覗かないから」て約束するぎい。ところが何日たっても何日たっても娘の部屋が開かんもんでお父さんな心配になって、ある晩少し位いいやろうと思って娘の部屋を覗いたら、娘はまあでっかい大蛇になって部屋の中にうごめいとったぎいわ、それを見てびっくりして気絶するくらいやった。ほうしっと大蛇が娘の姿に戻って
「お父さんが約束を破った」ていうて出て行ってしもうた。そして二度と現れなんだぎいと。こんでおしまい。
(大成101B「蛇婿入・水乞型」・通観3「「蛇婿入・水乞型」)

(付記)

蛇婿入(水乞い型)

  田が干しあがっているので、水をかけてくれた者に三人娘の一人を嫁にやると父親が独り言をする。翌日水がかかっている。父が娘たちに水の主に嫁に行ってくれと相談する。姉二人は断わるが、末娘が承諾する。蛇が若者になって嫁を迎えに来る。末娘はひょうたんと針千本とを持って若者についていく。若者は淵に連れて行く。娘はひょうたんを沈めたら嫁に行くといって淵に投ずる。若者は蛇になってひょうたんを沈めようとする。その間に娘は針を投ずる。蛇は針にささって死ぬ。娘は家に帰える。というのが一般的な蛇婿入・水乞い型である。守山裕美子の場合は、変形された水乞い型といえる。
  次の原山の蛇池の場合は蛇と娘が恋仲になって、蛇について行き、蛇の嫁となって池に入ってしまうという形になっている。