15.蝉の前生

羽坂    笹川  梅子

  むかし昔、めくらの息子がおって、いつもかもミエーン、ミエー ンちゅうて泣いとっつたといね。そしたら親が可愛いて、可愛いてどもならんもんで、いろいろまい物を一生懸命に探いてきては、そのめくらの子に食べさしとったとい。
  そしたらその子がね、俺にでさえこんなまい物を食わせるもんの、親らちゃどんなまい物食べとるやらと思うて、ある時に親の腹を割って見たら、そん時に息子の目があいて、見ると親の腹の中ににゃまづい物ばっかり入っとったとい。
  そしたら息子あ後悔して、それから蝉になってミーン、ミーンちゅう泣いて親の腹を開いて見たがを許して欲して、こんでミーン、ミーンて鳴くがになったぎゃといね。
(大成62「蝉兄弟」・通観580 「蝉不孝」)

(付記)

  弟が兄の旅立ちを見送り、名を呼んでいる間に蝉になる。それで蝉は「ミンー、ミンー」と鳴く。
  木こりが斧を失い、探し歩いて蝉になる。だから蝉は「ヨキー」と鳴いている。
  蝉は母親の言うことを少しも聞かなかったので、罰があたり目がつぶれる。それで「目が見えん見えん」と鳴く。親を大事にしないといけない。
  このような昆虫の出す音、不従順が罰せられたとしている。