8.むかでの医者迎え

川田    守山  裕美子

  虫たちが集まって遊んでいたら、一匹の虫が急に、腹が痛い、腹が痛いと騒ぎだした。虫たちは、これは早うお医者さんを呼んでこんならん、熱も高くなってきたし、誰が医者を呼びに行くかと相談したと。すると年とった虫の一匹が、むかでがいいと言うたと。何んでむかでをやるげと言うたら、むかでは足が百本もあっさかい、二本や六本のもんより歩くが早いやろうと言うたもんでみんな
「そうだ、そうだ」ということで、医者を呼びにいく使いに決めたげと。むかでは
「かしこまりました」といって、いそいそと玄関で準備にかかった。みんなはまだこんかまだこんかと言いながら、背申をさすったり、腹を暖めたり、頭を冷したりしていっしょうけんめ看病して
「待っとれ、今医者くっさかい」「今来るから」「もうくるから」といってなだめておったと。
そやけど、どんだけ待っとってもむかでが帰ってこんもんで、玄関へ見に行ったらまだ、むかでがわらじをはいとる最中で、今六十番目のわらじをはいとるところやと汗だくになっとったと。みんなたくさんのわらじをはかせんならんことに気がつかなんだと。
(大成40「百足の医者迎え」・通観593「むかでの使い」)

(付記)

百足の医者迎え

  虫仲間の王が病気になる。足が多いので早いと思って百足を医者迎えにやる。医者が来ないので百足を探すと、まだわらじを履いている。
  話の主題は9「むかでの酒買い」でも同じであるが、多足であるゆえに使いの適任者とされたむかでが、その多足ゆえに、わらじをはくのに手間取り、かえって時間を取ったという意外性にある。