7.猿の生き肝

川田    守山  裕美子

  昔、竜宮城のど雛様が病気になったと。どんだけたっても治らんもんでよわっとったげと。海の占い者の言うには
「こりゃ、猿の肝を食べれば治る」と言うたと。ぜひ猿の肝が欲しいということで、みんなで誰を猿のところへ行ってつれてきてもろうかとなったら、クラゲが行くことになったげと。
猿の肝をとるには猿を竜宮城へつれてこんならん。そこでクラゲが使者になって猿のところへ行ったがや。
「おい、猿どん、猿どん竜宮城ちゅうところはすばらしい所やから、ごちそうもあるし遊びにこんか」と呼掛けた。
猿は食べ物のことを聞いたもんでうれしがってぜひ行きたいというので、クラゲの背中に乗って、猿に目隠しさして竜宮城へつれてきた。
竜宮城へついたらみんなごちそうをだして猿をよんでくれるわけや。そんときに猿の横によばれとったもんが、うっかり口をすべらしてしもたげちゃ。もともと猿はりこうやもんで何んでおらをこんだけもてなしてくれるがか、ごちそうをよばれながら不思議に思うとったのに、隣のもんの言うには
「竜宮城のお姫様が病気になられて、その薬に猿の肝が一番きくといわれるもんでお前を呼んできたげと」それを聞いた猿はびっくりしたが、でもここで逃げ出したりしたらつかまえられて肝をとられると思うて猿は考えて
「ああ、そうかそうか失敗した。はじめからそれを聞いとれば猿の肝を持ってくるげったが、その肝は松の木にかけておいてきた。今から取りに行かにやだめや」と言うたと。また猿はクラゲに背負われてもとのところへ帰ってきた。
だまされた猿はクラゲが憎くて骨を抜いでしもうた。ほんでクラゲに骨がなくてくにゃくにゃになったしもてがやと。そやけどもクラゲが陸まで上がってきたので、猿は松の木へ上って、クラゲに
「それみたか」と言ったのでクラゲは猿の尻尾を引っ張ったら、猿は木にしがみついとるので尻尾が切れて短くなって、尻が真っ赤になった。そやさかいクラゲは今でもぐにゃぐにゃし、猿の尻や赤いげと。
(大成35「猿の生き肝」・通観558「猿の生き肝」

(付記)

クラゲ骨なし

  クラゲに骨のない由来などで結ぶ動物昔話。
  竜宮の乙姫が病気になり、猿の生き肝を食べるとなおるという。竜宮の王様の命令で亀が猿をだまして連れてくる。ところが門番のクラゲが猿に生き肝を取るのだと告げ口をする。
猿は肝を木に干してきたとだまして、陸地に引き帰らせて逃げてしまう。クラゲは罰として骨を抜かれて、あのような姿になる。
猿を連れにくる使者を(守山裕美子)はクラゲと語っているが亀を使者とする型もある。また告げ口をして制裁を受けるものにタコやナマコとしている例もあるが、いずれもそれぞれの形態の由来からきている。
  また、亀を使者とした型では猿にだまされて木から亀が落されて甲らにひびが入って模様になったとするもので、いずれも形態の由来談である。