6.古屋の漏り

川田    守山  裕美子

  昔々、山里に一軒の百姓の家があって、その古い家に爺さんと婆さんがおったと。
「爺さんや、今夜あたりふるやのもりが来るがでないかのお」と婆さんが言うたと。
「そうやなあ、今夜ふるやのも りが来そうやなあ。虎や狼より恐ろしいもんなもりどんやさかいなあ」と爺さんと婆さんが話おうとったと。その話を外でにわとりを盗りに来ていた狼が聞いとったげと。
「ふるやのもりどん」というもんなどんなもんやろ、虎やわしより強いということを聞いて忍び込んだ狼も恐ろしくなって裏の小屋にすくんでおったと。そこへこんな雨の降る暗い晩はよかろうと思って馬を盗みに来た泥棒が、そこにいた狼を馬だと思って飛び乗った。狼は泥棒を「ふるやのもり」だと思ってびっくりして逃げだした。また馬も狼が来たことがわかって暴れだしたもんで、狼は命がけで山道を一生懸命走っていった。狼の尻尾につかまっとった泥棒は、木にひっかかったと。静かになったので馬は馬小屋へもどってきた。爺さんと婆さんがびっくりして何がおきたげらと思って馬小屋へ行ってみたげと、そんときバシャバシャ雨が降ってきて雨漏りが始まったと。
(大成32B「古屋の漏り」・通観545「古屋の漏り・逃走型)

(付記)

古屋の漏り

  動物と人間との葛藤を描いた話。
  雨の夜に爺と婆の家に狼と馬泥棒が鶏や馬を盗もうと忍び込む。爺と婆は狼より古屋の漏りが恐ろしいと話している。狼はそれを聞いて恐ろしくなって逃げ出す。その背中に馬泥棒が馬と間違えてとび乗る。狼はそれを「古屋のもり」というものだと思い、振り落として逃げる。泥棒は穴に落ちる。猿が見に来て尾を穴の中へ差し入れると、泥棒はそれにつかまって離れない。無理に引っ張って尾が切れ、それ以来猿の尾は短くなった。
狼でなくて虎で語るところもある。いずれにしても「古屋のもり」という言葉の勘違いからくるおもしろさにある。(日本昔話事典)