4.猿かに合戦

末坂    三野  喜美子

  むかしむかし、猿と蟹がおったげ。蟹は握り飯を一つ拾ったと猿は柿の種を拾ったがや。猿は柿の種を拾ったって食べられんし、蟹の拾った握り飯を欲して欲してどんならんげちゃ。
「蟹や、蟹や、おら腹へってやっとおるげ、その握り飯とこの柿の種とかえっこしてくれんか」と言うたげ、蟹は握り飯ならすぐ食べられるがに、柿の種などは食べられんもんで
「やあわいや」と言うたら、猿ばおこって握り飯を引き取ってもくもくと食ってしもうたげ。蟹は仕方なしに自分の家の庭に種を植えて、それから毎日毎日水をかけ
「早く芽を出せ柿の種」といっては水をかけとったら芽が出てきたと。そしたら今度は
「早く木になれ柿の種」と言っては水をかけたり肥やしをやったりしとったらぐんぐん伸びて、やがて赤や青の実がなりだしたと。世話したもんで赤い実がなってきたが、蟹は木に上ることができんし困っておった。ちょうどそこへ猿がやってきたと。蟹は猿に
「一つ赤くなった実をとってくれないか」と言いったら、猿はスルスルと上った。そして赤く熟したのを次々と食いはじめた。
「猿、猿、お前ばっかり喰うとらんとおれに一つとってよこせよーと言ったら、青いかたいのをとって蟹めがけてかつけたので、蟹の甲らがわれて死んでしもうた。親蟹が猿に殺されたことがわかった子蟹たちは、親にすがって泣いていたところへ、臼と蜂と栗がやってきて親蟹が猿に殺されたことを聞いて、意地悪な猿にかたき討ちをすることに決まった。栗は囲炉裏にいて猿が寒くてあたりに来るだろうから、猿にあたってやけどをさせよう。蜂は水かめに隠れていて、やけどを冷しに来たら刺してやる。あわてて猿が逃げていくところを白が飛び降りておさえつける計画をたてて、それぞれ持ち場について待っとったと。
日暮れ方になったら猿が
「ああ、さむい、さむい」といいながらもどってきて、囲炉裏ぱたであたろうとしたとき、火のように赤くなった栗が「パアン」とはねて腹の尻に飛びついた。「アチチ、アチチ」と尻を押さえて水がめのところへ走っていって、水で冷そうとした。すると待ちかまえていた蜂は「チクッ」と刺すやら、子蟹どもがはさみで猿の毛を弓っ張ったり 尻尾をはさみでヵみつしたりしたので、猿は玄関から表へ出ようとしたときに屋根裏から臼が飛び降りて「ドスン」とやっつけたので、猿は平たく伸びて死んでしまったと。
(大成27A「蟹の仇討」・通観538「猿蟹合戦し)

(類話)

川田    守山  裕美子

(付記)

猿蟹合戦

  動物葛藤談の一つ。
  猿が蟹をだまして握り飯と柿の種を交換し、蟹が柿の種を蒔いて実がなる。猿が来て取ってやると言い、熟したのは自分で食って、青いのを取って蟹に投げて殺す、子蟹の復甘。栗、蜂、臼が同情して助太刀をする。猿蟹合戦談である。
  栗の爆発、蜂の突刺、臼の重圧、それに牛糞の潤滑の四機能の援助者によって仇を討つ後半部分にこの昔話の中心があると関敬吾が言い合戦談としている。(日本昔話集成)