結び

調査の意図

 変化の著しい時代にあって、無形の口承伝承としての昔話や伝説が語られる場や機会がなくなってしまった。それだけにこの地域で語られてきた昔話も消滅してしまうと思われるので、文化財保護活動の一環として調査と記録保存を試みたのである。

 明治、大正、昭和、平成と生き抜いてきた古老たちは激減していく。なかでも優れた語り手はさらに数少なく貴重な存在である。

 この人たちが子供のころに、年寄りから昔話を聞く場が唯一の団らんであったし、話を通して人間としての生き方を聞かされた。また、昔話は無形の口承文芸でもある。それらの意味からも、組織的に調査をし、学術的にも研究資料として扱えるものをと意図した。

伝承の状況

 各地区集落へ出向いて調査を行ったが、優れた語り手と思える人でも、昔話に関するかぎり何十年も語る機会がなかったために忘却してしまった。という声もあったし、六・七十年前に聞いた子供のころを想起するだけで精一杯で、数名の古老が語り合ってやっと一つの話のアウトラインができるというものもあった。しかし、優れた伝承者も皆無ではなかった。「おら子供のとき爺さんから聞いた」というのを昔ながらの口調で語ってくれた語り手もあった。こんな貫重な人からは二・三次の調査でうんと補足してもらった。

 でもこの調査が、五・六年遅れたら、これだけの話を聴取することはできないと思われた。それというのも第二次調査で公民館まで来て元気に語ってくれた長屋いとさんは、出版を見ずして他界されてしまった。高齢だけに何時どうなるとも知れない。残念であった。

調査等の指導

 調査編集の指導監修に当たられた金沢工業大学教授、藤島秀隆先生には多忙な中を幾度となく来町して、直接の指導と調査に加わって下され、しかも本書の解説を執筆していただき報告書の形態を整えさせてもらって感謝に堪えない。

 また表紙、挿画は盟友、青野政美氏(公民館絵画教室講師)の手を煩わし、本書にふさわしいものにしてもらった。ここに両氏にたいし厚く謝意を申したい。

 以上、本書の調査、編集、出版に当たり、町当局をはじめ、伝承者、協カ者ほか関係各位のご協カとご支援に対し深くお礼を申し上げ結びとする。

(高木 記)