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1、地勢・町名由来・調査方法 <地勢> <町名由来> 「鳥屋町史」(昭和30年11月刊)所収の鳥屋比古神社の「文化3年(1806)由来書上帳」によれば、往昔、鳥屋比古神は国土平定開発の祖神と仰がれた。即ち、鹿島路の湖水(邑知潟)に棲息する毒蛇が人々に害毒を及ぼしたので射殺して当地一帯を平定したと伝え、その射た矢が落ちた所を羽坂と称するようになったと言われている。 <人口動態等> <調査方法> 調査採集を実施するにあたって、鳥屋町教育委員会社会教育課から文書及び電話等によって、各地区の区長・老人会長に協力を依頼し、併せて各地区協カ員の協力を得て、伝承者に公民館・集会所・自宅に集まっていただき、カセットテープに収録した。収録も原則として地区ごとに調査員が分担し、話者の語りを忠実に翻字することに努めた。 |
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2、語り始め・語り収め句及び伝承状況 <昔話の呼称> <語り始めの句> そのほか、「むかしむかしーーがおったげ」、「むかしあるところに があったそうや」、「むかしあるところにーーがすんどったと」、「むかしあるところにーーがおってのお」、「むかしーーがおったといね」、「むかしあるところにーーがおったがや」、「とんとむかしあったといの」など、微妙な違いはあるものの「むかしむかし」あるいは「むかし」で語り始められる言葉の語尾は、「と」・「ね」・「や」がほとんどである。 <語り収めの句>
語り始めの句に対する結末句が「語り収めの句」で、次のようにわずか六種類のみ採集することができた 一般的に言うと昔話の基本的な特徴は、語り方に一定の形式(スタイル)がある。すなわち、語り始めと語り収めに形式定型句が伴うのである。 (A)形式のような語り収めの文句「なめてみたらからかった」は上に「なんばみそ」という文句が脱落したものと推測される。 「ナンバミソ」の「ナンバ」は方言で南蛮のことで、唐辛子粉を味噌にまぜて作ったもので、所により砂糖も入れる。田楽のことを言い、コン二ヤク、芋などに塗って食べると言われている。 次に、(C)形式のような語り収めの文句は、「ガンナマス」・「カンナマス」圏と言える。古老の教示によると、「なます」は「かんなます」と呼ばれ、昔はめったに食べず、特に正月・法事・祭りの時に食べたという。 <相槌> <伝承状況・経路・時間・場所> @夜なべの仕事(ダンゴの粉挽きや藁仕事)の時に母親や父親から聞いた。 |
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3、石川県の昔話調査及び加賀・能登の特徴 <石川県の昔話調査> まず、加賀地方の採集は昭和初期にはじまり、これまでの主な資料集刊行を挙げると、山下久男氏「加賀昔話集」(全国昔話資料集成19、昭和50年岩崎美術社刊)は、昭和10年刊の「加賀江沼郡昔話集」の増補版で本格昔話46話、動物昔話50話、笑話58話など合計160話を収録。中でも「三人姉妹」(サルサワ)「舌切雀」「挑太郎異談」などが光彩を放っている。 次いで、小倉学氏「白山麓昔話集」(全国昔話資料集成4、昭和49年岩崎美術社刊)は、昭和38年刊の旧版「白山山麓白峰の民話」の増補版で133話を収めている。特筆すべきは、戦後の石川県内における最もすぐれた語り手であった山下鉱次郎翁が語り伝えた72話が収められていることである。 続いて、加能昔話研究会編「加賀の昔話「(昭和54年・日本の昔話26、日本放送出版協会刊)には「時鳥兄弟」「肉附面」「子育て幽霊」など合計122話が収録されている。 松本孝三他者「南加賀の昔話」(昔話研究資料叢書14、昭和54年三弥井書店刊)は、動物昔話10話、完形昔話61語、因縁・化け物語8話、笑話21語、形式談3語、伝説11語、世間話15話など合計129話が収められている。 立命館大学説話文学研究会編「白山麓・手取川流域昔話集」(昭和55年刊)には動物昔話21語、完形昔話91語、因縁・化物語9話、笑話37話、伝説・世間話24話、形式談5話など合計187話が収録されている。 京都女子大学説話文学研究会編「小松市の昔話」(昭和56年小松市教育委員会刊)は、むかし語り55話、笑話93語、動物昔話26話、伝説・世間話30話、合計204話を収めている。 藤島秀隆監修「金沢の昔話と伝説」(昭和56年金沢市教育委員会刊)には、動物昔話33話、本格昔話82話、笑話64話、世間話27話、伝説76話の合わせて282話が収録されている。 その一方、能登地方の採集は、昭和40年代後半に入ってやっと活発化し、国学院大学民俗文学研究会編刊「奥能登地方昔話集」(伝承文芸第8号
昭和46年)は、珠洲の「三右衛門話」「滝,坊話」など奥能登の特色ある昔話を中心に101話を収録。 大島応志・常光徹著「三右衛門話」(能登の昔話、昭和51機楓社刊)は、世間話の性格を強く有する「三右衛門話」、愚か村話と呼ばれる一連の話の範晴に入る「滝ノ坊話」など伝承地としての特色を遺憾なく発揮した話を中心に100話を収めている。 (昭和53年、羽咋郡富来町教育委員会刊)には、動物昔話15話、完形昔話72話、因縁・化物語9話、笑話70話、伝説・世間話23話など合計192話が収録されている。中でも、人を巧みに編ましながらその人を怒らせることのない、やや愚鈍に傾いたおどけ者であり、実在の人と伝える「干ノ浦又次」や「和尚と小僧」「閑所の屋|板葺き」などが特徴と言えよう。 <加賀地方と能登地方の昔話の特徴> 石川県の昔話及び伝説で特筆すべきことは、真宗寺院における僧侶の説教話が顕著であり、伝承と伝播に大きな影響を及ぼしている。例えば能登地方の「引砂の三右衛門話」・「長太貌」、加賀地方の「肉附面」更に「蓮如伝説」などはその最たるものである。 加賀地方、能登地方ともおおむね昔話を「むかし」と呼び、加賀地方の発端句(語り始めの句)は「昔」「昔々」「昔々あったとい」「昔々あったといや」などが多く、結末句(語り収めの句)は「そうろうべったりかいのくそ」「それでそうらいきりのかんどめなし」「そうらいけっちり」「そろばんがっちり」などさまざまだが、言わば候圏である。 |
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4、鳥屋町の昔話・伝説の内容と特徴 採集した昔話及び伝説・世間話452話のうち、厚い分布を有する話型として、<動物昔話>では時鳥と兄弟・テテッポッポ・雀孝行、<本格昔話>では蛇婿入(立ち聞き型と水乞型)・舌切り雀・閑所の屋根ふき(鳥飲み爺)・米埋め糠埋め(継子話)・食わず女房・姥捨て山・嫁おどし面(肉附面)がある。 次に<笑い話>では愚か者の「ダラな兄んさ」(ダラ婿さん)@あいさつ失敗、A馬の尻に柱掛け、B糸引き合図、Cたくあん風呂、Dドッコイショ、E買い物の名忘れ、Fだらな兄さの灰集め、G三尺わらじ、Hドンなボンなどが圧倒的に多く伝承されている。 次に、「和尚と小僧」@飴は毒か、A和尚の焼き餅、Bおはぎは阿弥陀さま、C和尚も食べたくなった青い葉っぱ、D和尚が小僧を使うがでないなどがよく語られている。 <伝説><世間話>で顕著なのは、地蔵伝説・弘法伝説・天狗伝説・狐にだまされた話・むじなやかわうそにだまされた話などである。一般に各地区の人々の生活・行事・信仰等と結び付いた話が多数伝承されており、集落における暮らしのにおいが感じられる。 <動物昔話>のうち、時鳥と兄弟・テテッポッポは石川県下全域に分布している。「時鳥と兄弟」は小鳥前生談の中では代表的な昔話である。類話が全国に広く分布している。盲目の兄と弟がいた。弟は山芋をとってきて、兄にはよいところをあげた。兄は弟はもっとおいしいところを食べているのではと邪推して、弟を殺して腹を割く。すると腹の中は芋のくずばかりであった。後悔した兄は時鳥になって今でも鳴いている。話の中の時鳥の鳴き声は、「掘って煮て食わしょ」が多い。話の結末には人間の疑心暗鬼は決してよくないから、人を信じるものだ。また、兄弟は仲良くするものだ、と言う意味の教訓が必ず付け加えられている。 「テテッポッポ」は山鳩の鳴き声であり、更に、何でも反対することを言うのである。言わば親不孝者の末路を語る小鳥の前生談である。かつては、親のいうことを聞かない子供を「テテッポッポになるぞ」(一青)といわれた。あんまり親のいうことを聞かないで反対ばかりしていると「テテッポッポになるぞ」(良川・大槻)といわれた。固いものになれ、親のいうことを聞け(瀬戸)とおどかされた。おおむね話の末尾に「子供というものは親が生きている間に、親の言うことを必ず聞いて親孝行するのだぞ」という意味の教訓が付加されて語られているのである。雨降りの日に川のほとりに埋めた親の墓が流されるのを心配して山鳩となり、話の中で「テテッポッポ親(母)恋し」という鳴き声が語られる。類語が全国に分布しており、テテッポッポのことを石川県内では「山鳩不孝」と呼ばれている。 <本格昔話>のうち、「蛇婿入」(立ち聞き型)では菖蒲湯の由来を語る話が非常に多い。6月4日(一部では5日)の夜、菖蒲湯をたて入浴すると、腹に虫がたたない(わかない)。寝床の下に一日日清を敷いて寝ると病気にならない。鉢巻きすると風邪引かない、頭痛もしない。|菖蒲を箪笥の中に入れると虫除けになる。軒先に挿す。菖蒲湯に入ると蛇の子が下りるなどが昔話に関連して異口同音に語られている。菖蒲には呪力や魔除けの薬効があると信じられているようで、民間信仰は生きているのである。 次に「嫁おどし肉附面」の伝承は、文明年間(十五世紀)蓮如上人が越前国吉崎御坊に在住のみぎり、ある村の信心深い嫁が信心嫌いの姑の迫害を排除して行き、後に姑も信者になったという。言わば蓮如参りが事件の発端・展開・結末を構成して、それが一貫して説かれているのである。 さて、本語は誰がもたらしたのか、大別すると、@親から聞いた。A近所の年寄りから聞いた。B近所の寺で僧侶から聞いた。の吉崎へ行って、吉崎寺あるいは願慶寺の僧侶からそれぞれ所蔵されている肉附面の話を聞いた。の四種存するのである。とりわけ、僧侶の説教が伝承・伝播に大きな影響を与えている。また、一般に村の年寄りも重要な伝承者の役目を果たしている。 次に八伝説・世間話Vのうち、「七尾のデカ山と人身御供伝説」は注目に値する。七尾市山王町にある大地主神社(通称は山王神社)で行われる5月14日の青柏祭には高さ十二メートルもある巨大な曳き山が三台も出て、デカ山とよばれている。その由来が猿神退治の伝説なのである。猿神退治の話は、人身御供をささげていた神が実は猿で、犬を送りこんで退治するという厄難克服の昔話であり、犬の名にちなんで「竹箆太郎」とも呼ばれる。七尾の伝承は昔話が伝説化したものであり、「犬援助型」である。富山・石川両県では犬の名前は「越後のしけん(しゅけん)」である。三匹の猿にちなみ三台の山車を山王社に奉納するという伝承はきわめてユ二ークと言えよう。 鳥屋町域は羽咋と七尾を結ぶ西往来に位置している。また、瀬戸や花見月を通って外浦の志賀町方面にも通じている。七尾市と鳥屋町の人々は日常の交流があるのに、七尾市内に伝承されている昔話や伝説がほとんど鳥屋町内へ伝播されていない。わずかに「七尾のデカ山と人身御供伝説」が川田・良川・一青・春木の各地区に伝承されてきたことは貫重な資料と言えるだろう。 鳥屋町地方は浄土真宗・浄土宗・真言宗・曹洞宗・日蓮宗などの各宗派が相混淆するという地域である。高僧伝説として弘法大師以外、語られていないようだ。親鷺・蓮如・道元・日蓮等に関する高僧伝説はひっそりと影をひそめてしまっている。また、外捕方面に多い源平伝説が鳥屋町内にはほとんど伝承されていない。 |
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昭和10年生まれ。東京都出身。国学院大学院日本文学専攻修士課程修了。 |