発刊に寄せて

鳥屋町教育長    横山 円了

 活力に溢れ、雑多な文化が充満し、毎日がいわばお祭り騒ぎである。フェスティバルという名前の催しがいかに多いことか。皆が忙しく何かにせきたてられているようである。・・・・松村禎三氏のこの世相寸評は、率直に今の時代相を言い当てたものとして共感を覚えるのです。

 「物の豊かさから心の豊かさへ」を根幹に据えた地域づくりが志向されて来ています。急速に変化していく時代の推移の中で、かつて地域に根を張り、地域の人々の心を育んでぐれた地域文化が、そのかげを薄くして来ております。そんな中で、伝承文化の一つであると着眼し、その保存を意図した「とりやの昔話」の調査・編集の企画は、まさに時宜を得たものだと大変有難く受けとめています。

 わが町の誇る伝承文化でありながら、埋もれていき消え去ろうとしていた「町で語り継がれていたむかし話」が、再び息を吹き返しました。町に在住の古老の口から、いろんな感慨を込めて語られたその一つ一つは、往時の地域の人連の生活を肪佛させてくれるものでした。

 忙しい時代相であればある程、ゆったりしたくつろぎのひととき、心の和む家庭の団欒・・・・「豊かな心を育んでくれる」感性の時間と空間が望まれているのではないかと考えるのです。むかし話が醸し出す何ともいえない雰囲気と響き、語り手である祖父母の語り口に目を輝かせ想像をたくましくして聞き入った子ども達・・・・そこには確かな「心のふる里」があったと思うのです。

 いま、その総集編「とりやの昔話」の発刊に当たり、指導して裁きました藤島先生、発掘に苦労を惜しまなかった調査員の皆さん、そして、語り手の役を勤めて下さった古老の皆さん方に、心からの敬意と謝辞をお贈りし、発刊のお祝いにさせて戴きます。